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本稿は、20世紀初頭の主要な作家である夏目漱石の例を通じて、風景を形作る行為の文学的側面を研究するものである。まず、明治時代の言説において、いかに風景の概念が中心的な位置を占めるようになるか、そしてどのような文化的パラダイムの変化を反映しているかについて説明する。次に、漱石が小説の普通の筋よりも自然や空間の描写を優先した小説3作品に検討を加えつつ、美学的、イデオロギー的な仕掛けとしての風景について考える。漱石は、様々な文化に由来する詩・絵画にまつわるレファレンスを多用しつつ風景を豊かにする一方で、自然、言語、国家アイデンティティの間にある密接な関係を現代風に刷新しつつ、風景をポストモダンな手法...